寺院が所有、管理している墓地にて、墓じまいや改葬を行う場合、最もトラブル発生の可能性が高いと思われるのが、いわゆる「離檀料」の有無や、その金額の大小ではないでしょうか。寺院が所有、管理している墓地を使用している場合、寺院と檀信徒との間で、通常 ①「墓地使用契約」②「檀徒加入契約」という、2種類の契約が存在していると考えられます。従って、墓じまいや改葬を行う場合、お墓の解体撤去工事(墓じまい)を行い、墓地を更地に戻し(墓地の原状回復)、墓地の管理者である寺院へ墓地を返還する場合には、「墓地使用契約の解除(墓地使用権の放棄)」を行うことになります。
墓じまいや改葬と共に、檀家を抜ける(離檀)場合には、「檀徒加入契約の解除」も行うことになり、これをもって「離檀」とされることが一般的です。その「離檀」をする際に、寺院側から請求、要求されることが有る金銭は、一般的には「離檀料」等と呼ばれることが多く、各々の寺院により、離檀料の有無や、金額の大小が異なる為、時には大きなトラブルに発展する場合も有りますので、具体的な金額や詳細等を、必ず事前に、寺院に相談、確認をしておくとよいでしょう。
そもそも、このいわゆる「離檀料」は何か?支払う義務は有るのか?と、疑問や不安に思う人も多いと思います。
いわゆる「離檀料」とは、一般的には、檀家から離脱する(離檀)際に、寺院側から請求、要求される事が有る費用のことを指します。「離檀料」という呼称は、一般的に使われている、一種の俗称、一般名称のような物であり、「奉納金」「謝礼」「御礼金」「御布施」「寄付金」「志」「志納金」「奉賛金」「懇志金」「檀徒契約解除料」「違約金」等々、各々の寺院により、その名目や呼び方は様々ですが、一般的には、檀家を抜ける(離檀)にあたり、これまでお世話になったことに対する、お礼や感謝の気持ちを、形にしてお伝えする、等という意味合いが有ると言われております。
法的な見地から見ると、檀家を抜ける(離檀)ということは、寺院と檀信徒の間で、交わされていると考えられる「檀徒加入契約」を解除する、ということになります。それに伴い、寺院側から請求、要求されることが有る、いわゆる「離檀料」は、この「檀徒加入契約解除」に関して授受される、金銭債権という扱いになると思われます。しかしそもそも、檀徒加入契約の解除に関して、この様な類の金銭債権が発生するのかどうか?という事についても、疑問が残りますが、この様な金銭債権に基づく請求権は、一般的には法的根拠に乏しく、寺院側の請求権は無いのではないか?と考えられます。従って、寺院側から「離檀料」を請求、要求されても、離檀をする側の檀信徒は、支払いを拒否する事ができます。
日本国憲法の第3章 第20条では、「信教の自由」が保障されており、離檀を希望している檀信徒に対して、寺院側が一方的に、離檀料を請求、要求したり、離檀、墓じまい、改葬をすることを妨げたりすることは、これに反することにもなりかねません。ただし例外として、離檀することになった場合に、いわゆる「離檀料」を支払うことを、寺院との間で、事前に契約等を交わしていたり、「墓地の使用規約」や「檀信徒規約」等に、その旨の記載が有り、離檀時にその契約や効力が有効であった場合には、取り決めに応じた債務を履行する(離檀料を支払う)義務や責任が生じる可能性は有ります。
例外を除いて、いくら法的な支払い義務の根拠が無く、任意的なものである、とはいっても、今までお世話になってきた寺院へ、離檀料を全く支払わずに、離檀の話を進める場合には、寺院との関係を悪化させ、トラブルの原因となってしまう可能性も有りますので、金額に納得できる場合には、無用なトラブルを避け、離檀、墓じまい、改葬等をよりスムーズに進める為にも、お支払いされることも、一つの選択ではないでしょうか。しかしそうはいっても、数ある寺院の中の、ごく一部かとは思われますが、寺院によっては、数十万円~数百万円程度の、高額な離檀料を請求される寺院が、実際に存在していることも事実です。
高額な離檀料を寺院から請求された場合、離檀料を支払わないと離檀・墓じまい・改葬等をさせてくれない場合、その他離檀に関わることで何かトラブルが発生した場合で、自分達だけで解決することが難しい、といった場合には、弁護士や司法書士等の法律の専門家、寺院の檀家総代、寺院と深い付き合いの有る親族や地域の年長者、寺院の宗派の本山、寺院所在地の市区町村役場、石材店(「指定石材店制度」が有る場合には、その寺院の指定石材店)等に相談されるのもよいかと思います。
離檀料の具体的な金額については、寺院との間で、事前に契約等を交わしていたり、墓地の「使用規約」や「檀信徒規約」等に、その旨の記載が有る等して、金額が明確に規定されているケースは、稀だと思われます。離檀料の相場は、「1~20万円程度」「法要の御布施の1回分」「法要の御布施の3回分」等々、諸説有りますが、寺院との関係性、戒名(法号、法名)の位、寺院の寺格、寺院の規約、寺院の考え、地域、慣習、檀徒の経済状況等によっても、金額が変わることが有りますし、中には離檀料が不要な寺院も存在します。従って実際には、離檀料の有無や金額の大小は、各々の寺院によって異なる為、無用なトラブルを避け、離檀・墓じまい・改葬等をよりスムーズに進める為にも、決して自己判断はせず、直接寺院へ相談されることをお薦め致します。
但し、寺院へ相談するとは言っても、離檀や離檀料の話は、それまで続けてきた、檀信徒(檀家)と菩提寺(檀那寺)という、いわゆる寺檀関係を解消し、以降は、宗教的及び経済的な関係、お付き合いが絶たれることになるわけですから、寺院の側からしても、なかなかデリケートな問題である為、事前に下話や相談等をしていない状態で、何の前置きも無く、いきなり離檀や離檀料の話を、一方的に切り出したり、寺院側からまだ請求もされていない段階で、自己判断で離檀料を持参する等という行為は、寺院側の心証を損ない、トラブルの原因にもなりかねず、離檀・墓じまい・改葬等がスムーズにいかなくなる可能性も有りますので(勿論対応は、各々の寺院により異なりますが・・)、決定事項ということではなく、まずは「相談」という形をとる等して、これまでお世話になってきたことへの、感謝の気持ちを伝えつつ、離檀・墓じまい・改葬等を、検討せざるを得なくなった、理由や事情等を丁寧にお話しして、理解を深めてもらい、慎重丁寧に段階的に話を進め、あまり焦らずに話を進めていかれた方が、よりスムーズに話が進む可能性が高いと思います。